市場セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)というSTPは、マーケティング戦略を立案する上で重要なフレームワークです。これらのステップを通じて、企業は自社製品やサービスがどのようにして顧客に最も適切に提供されるかを決定します。STPの各要素を詳しく説明していきます。
1. 市場セグメンテーション(Segmentation)
市場セグメンテーションは、顧客のニーズや特性が異なるため、市場全体をいくつかの小さなグループ(セグメント)に分けるプロセスです。各セグメントは共通の特徴を持っており、これにより企業は異なる顧客グループに対して、最適なマーケティングアプローチを設計できます。
セグメンテーションの基準
セグメンテーションは、以下のような基準で行われます。
- デモグラフィック(人口統計的セグメンテーション): 年齢、性別、所得、職業、教育レベル、家族構成などの基準に基づく分類。例として、高齢者向け製品や若者向けのファッションブランドなどがあります。
- ジオグラフィック(地理的セグメンテーション): 顧客が居住する場所(国、地域、都市、気候など)に基づく分類。例えば、寒冷地域向けの防寒具や特定の地域で人気のある食文化に基づいた製品などです。
- サイコグラフィック(心理的セグメンテーション): 顧客のライフスタイル、価値観、性格、興味、社会的階層に基づく分類。たとえば、環境に配慮するライフスタイルを送る人向けのエコ商品や、ラグジュアリー志向の顧客向けの高級ブランドが該当します。
- ビヘイビオラル(行動的セグメンテーション): 顧客の購買行動や製品に対する態度に基づく分類。購入頻度、使用目的、ブランドロイヤルティなどが基準となります。たとえば、頻繁に購入する「ヘビーユーザー」向けに特別な割引を提供することがあります。
セグメンテーションのメリット
- 顧客の多様なニーズに応じた戦略的マーケティングが可能になる。
- マーケティングリソースを効率的に活用できる。
- 特定のセグメントで競争優位を築くことができる。
2. ターゲティング(Targeting)
ターゲティングは、セグメンテーションによって分けられた市場セグメントの中から、自社製品やサービスに最も適したグループを選定するプロセスです。選定したセグメントに対して、集中してマーケティング活動を展開することにより、リソースの効率的な配分が可能となります。
ターゲティングの戦略
ターゲティングには、次のような主要な戦略があります。
- 無差別型マーケティング(マスマーケティング): 全市場を1つの大きなセグメントとみなし、同じ製品やマーケティング戦略を全ての顧客に対して適用します。主に広く消費される商品の場合に有効です(例:日用品、ベーシックな飲料など)。
- 差別型マーケティング: 異なるセグメントに対して異なるマーケティング戦略を採用します。たとえば、1つの製品でも異なるデザインや価格帯で複数の市場セグメントを狙う場合です。自動車業界では、ラグジュアリーモデルからエコノミーモデルまで、異なる層に向けた製品を提供しています。
- 集中型マーケティング: 特定のセグメントにフォーカスして、そこにリソースを集中する戦略です。ニッチ市場をターゲットにしたビジネスでよく使われます(例:高級時計や特定の趣味に特化した製品など)。
- カスタマイズマーケティング: 顧客ごとに個別にマーケティングを行う戦略です。特にBtoB(企業間取引)や、個々の顧客に特化したサービスを提供する場合に有効です。例としては、高級ファッションブランドのオーダーメイドサービスなどがあります。
ターゲティングのポイント
- 市場規模: セグメントが十分に大きく、経済的に魅力的かどうか。
- 成長可能性: 選定したセグメントが将来的に成長する可能性があるかどうか。
- 競争環境: セグメント内での競争が激しすぎないか、競争優位性を確保できるか。
- 自社の資源との整合性: 自社のリソースや能力が、ターゲットセグメントのニーズに対応できるかどうか。
3. ポジショニング(Positioning)
ポジショニングは、選定したターゲット市場に対して、自社の製品やサービスがどのような価値を提供し、競合と比べてどのように異なるかを明確に伝えるプロセスです。ポジショニングによって、顧客の心の中でその製品やブランドの位置づけが形成されます。
ポジショニングの要素
ポジショニングを成功させるためには、次の要素を考慮する必要があります。
- 差別化: 競合と明確に異なる価値を提供し、顧客に選ばれる理由を作る必要があります。差別化のポイントは、品質、価格、デザイン、顧客体験などさまざまです。
- 価値提案(Value Proposition): ターゲット顧客に対して、製品やサービスがどのように優れた価値を提供するかを明確にします。例えば、「高品質で手ごろな価格」や「最高のカスタマーサポート」といった価値を提案できます。
- 競合との比較: 自社製品やサービスが競合とどのように異なるかを顧客に伝えることが重要です。価格が競合より高い場合は、その価格に見合う品質や利便性を強調する必要があります。
ポジショニングマップ
ポジショニングを視覚化するために、「ポジショニングマップ」というツールがよく使用されます。このマップでは、縦軸と横軸に製品の異なる属性(例:価格、高級感、機能性など)を設定し、競合製品と自社製品の位置を視覚的に比較します。これにより、企業は市場での自社のポジションが競合に対してどのような立ち位置にあるかを確認できます。
ポジショニングステートメント
ポジショニングを明確に表現するために、「ポジショニングステートメント」という短い文章が作成されます。このステートメントは、ターゲット市場、提供する価値、競合との差別化を簡潔にまとめたものです。例えば:
「我々の製品は、高性能と手ごろな価格を両立し、忙しいプロフェッショナル向けに設計されています。他社製品とは異なり、短時間でのセットアップと優れた耐久性を特徴としています。」
STPのまとめ
STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)は、企業が市場で効果的に競争し、顧客に選ばれるための基本的なマーケティング戦略です。このプロセスを通じて、企業は市場を細分化し、最適なセグメントをターゲットに選び、顧客に提供する独自の価値を明確に伝えることができます。これにより、限られたリソースを効果的に活用し、競争優位を築くことが可能になります。