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リーダーシップの行動理論

リーダーシップの行動理論アプローチ(Behavioral Theory)は、リーダーシップの効果性がリーダーの行動に依存するという考え方に基づいています。行動理論は、リーダーシップを生まれ持った特性に依存するものではなく、リーダーがどのような行動を取るかに重点を置いています。このアプローチは、「リーダーは行動を学ぶことで育成できる」という観点を支持しており、リーダーシップのトレーニングや育成に役立つ理論です。

1. 行動理論の背景と歴史

行動理論は、1950年代から1960年代にかけて発展しました。この時期は、特性理論に対する反発が強まり、リーダーシップは生まれつきの特性だけではなく、リーダーが取る行動にも大きく依存するという新しい考え方が支持されるようになった時期です。行動理論は「リーダーシップは学習可能であり、特定の行動パターンを身につけることで誰でもリーダーになれる」との立場を取ります。

行動理論は、リーダーが特定の状況においてどのような行動を取るか、そしてその行動が組織やチームのパフォーマンスにどのような影響を与えるかを研究します。この理論の研究には、いくつかの重要な実証研究がありますが、特に有名なのはオハイオ州立大学ミシガン大学で行われたリーダーシップの行動研究です。

2. 行動理論の基本的な考え方

行動理論のアプローチでは、リーダーが取る行動を大きく2つのカテゴリに分類します。

1. タスク指向行動(Task-Oriented Behavior)

タスク指向のリーダーは、仕事の達成や目標の達成に焦点を当てます。このタイプのリーダーは、効率的なタスク管理、計画の策定、目標設定、メンバーの役割分担など、組織やチームが決められた目標を効果的に達成できるように行動します。

タスク指向リーダーは、以下のような行動を取ることが多いです。

  • 明確な目標設定とその達成に向けた計画の策定
  • メンバーに対するタスクの割り当てと進捗管理
  • パフォーマンスに対する厳格な評価とフィードバック
  • 生産性向上のための具体的な指示やサポート

2. 人間関係指向行動(People-Oriented Behavior)

人間関係指向のリーダーは、チームメンバーとの信頼関係や良好な人間関係を築くことに焦点を当てます。このタイプのリーダーは、メンバーのニーズや感情に配慮し、コミュニケーションを大切にし、チームの雰囲気を良好に保つための行動を取ります。

人間関係指向リーダーの特徴的な行動には次のようなものがあります。

  • メンバーとの良好なコミュニケーションの促進
  • メンバーの意見を尊重し、参加を奨励する
  • チームのモチベーションを高め、働きやすい環境を作る
  • 感情的なサポートやカウンセリングの提供

3. 代表的な行動理論の研究

1. オハイオ州立大学の研究

オハイオ州立大学の研究者たちは、リーダーシップ行動を分析するために、リーダー行動記述質問票(Leader Behavior Description Questionnaire: LBDQ)を開発しました。この研究では、リーダーの行動を2つの主要な次元で分類しました。

  • 構造作り(Initiating Structure): リーダーがタスクをどのように組織し、管理するかに焦点を当てた行動です。これは、タスク指向行動に相当し、目標達成に向けた組織的な行動を促します。
  • 配慮(Consideration): リーダーが部下に対してどれだけ配慮し、良好な関係を築くかに焦点を当てた行動です。これは、人間関係指向行動に相当し、メンバーの感情的なニーズや福祉を考慮した行動です。

オハイオ州立大学の研究によれば、効果的なリーダーは両方の行動をバランスよく行い、タスクの効率と人間関係の両方に配慮することが重要だとされています。

2. ミシガン大学の研究

ミシガン大学の研究者たちも、リーダーシップ行動に関する研究を行い、特にリーダーの行動が従業員のパフォーマンスや満足度にどのように影響するかに焦点を当てました。この研究では、リーダーの行動を以下のように分類しました。

  • 生産指向(Production-Oriented Behavior): リーダーが仕事の生産性や効率性に焦点を当てる行動です。これには、タスク指向の行動が含まれます。
  • 従業員指向(Employee-Oriented Behavior): リーダーが従業員のニーズや個人の成長に配慮する行動です。これは、人間関係指向の行動に相当します。

ミシガン大学の研究では、従業員指向のリーダーシップが生産性や従業員の満足度を高める傾向があることが示されました。

4. 行動理論の利点と限界

利点

  1. リーダーシップは学習可能: 行動理論は、リーダーシップが生まれつきの資質だけでなく、学習可能なスキルや行動に依存すると主張します。これにより、リーダーシップ育成プログラムが開発され、誰もが効果的なリーダーになれるという希望を与えます。
  2. 明確な行動基準: 行動理論は、リーダーが取るべき行動を具体的に示すため、リーダーシップの評価や改善のための明確な基準を提供します。リーダーの行動が結果にどのように影響するかが分析しやすくなります。

限界

  1. 状況を考慮していない: 行動理論は、リーダーの行動に焦点を当てていますが、どの行動がどの状況で効果的であるかまでは詳細に考慮されていません。つまり、同じ行動が異なる状況で必ずしも成功するとは限らないという点が見過ごされています。
  2. 行動の固定化のリスク: 行動理論は、リーダーシップを行動に結びつけるため、リーダーが特定の行動に固執しすぎて柔軟性を失う可能性があります。状況に応じた適応力が重要であるにもかかわらず、リーダーが学んだ特定の行動に依存してしまうリスクがあります。

5. 行動理論とコンティンジェンシー理論

行動理論は、リーダーの行動がリーダーシップの効果に直結すると考える一方で、**コンティンジェンシー理論(状況理論)**は、リーダーシップの有効性は状況に依存すると主張します。つまり、どの行動が効果的かはリーダーが直面する具体的な状況に大きく左右されるという考え方です。コンティンジェンシー理論は行動理論の限界を補完するため、両者を組み合わせてリーダーシップを考えることが重要とされています。

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