コンティンジェンシー理論(Contingency Theory)は、リーダーシップの効果は、リーダーの行動や特性だけでなく、そのリーダーが直面している状況にも大きく依存するという考え方に基づいています。つまり、どのリーダーシップスタイルが最も効果的かは、状況次第で異なるという理論です。このアプローチでは、「リーダーシップに普遍的な正解はない」という前提に立ち、リーダーと状況のマッチングが成功の鍵であるとされています。
1. コンティンジェンシー理論の背景
コンティンジェンシー理論は、特性理論や行動理論の限界に対する反応として1960年代に登場しました。特性理論は「リーダーシップはリーダー個人の特性によって決まる」とし、行動理論は「リーダーがどのような行動を取るかが重要」としましたが、これらの理論は「どの状況でも同じ特性や行動が有効である」という前提に立っていました。
しかし、リーダーシップが発揮される状況は、組織の文化、メンバーの特性、目標、環境などによって大きく異なります。そのため、リーダーシップの成功は状況に応じて異なると考える理論が必要とされ、コンティンジェンシー理論が発展しました。
2. コンティンジェンシー理論の主要なモデル
コンティンジェンシー理論にはいくつかの主要なモデルがあり、それぞれが異なる側面からリーダーシップの有効性を分析しています。以下に代表的なモデルを紹介します。
1. フィードラーのコンティンジェンシー・モデル
フィードラー(Fred Fiedler)のコンティンジェンシー・モデルは、最も有名なコンティンジェンシー理論の一つです。フィードラーは、リーダーシップの効果はリーダーのスタイルと状況の適合性に依存するとしました。彼のモデルでは、リーダーシップスタイルを固定的なものと捉え、状況に応じてリーダーを変えるか、状況を変えることが必要だと提案しました。
フィードラーのモデルは、リーダーシップスタイルと状況の適合を評価するために、次の要素を考慮します。
- リーダーシップスタイルの分類
フィードラーは、リーダーのスタイルを以下の2つに分類しました。- タスク指向型リーダー: タスクの完遂や目標達成を重視するリーダー。
- 人間関係指向型リーダー: メンバーとの良好な人間関係の構築やメンバーのニーズに応えることを重視するリーダー。
- 状況の3つの要素
フィードラーは、状況を次の3つの要素で評価します。- リーダーとメンバーの関係性(Leader-Member Relations): リーダーがメンバーからどれだけ信頼されているか、好かれているかという要素。
- タスク構造(Task Structure): タスクがどれだけ明確で組織化されているか。目標や手順がはっきりしているかどうか。
- リーダーの権限(Position Power): リーダーがどれだけ強力な権限を持っているか、例えば、懲戒や報酬を与える力があるかどうか。
これらの3つの要素の組み合わせにより、状況が「好意的」か「非好意的」かを判断します。そして、フィードラーは以下のように結論付けました:
- 好意的な状況または非常に非好意的な状況では、タスク指向型リーダーが効果的。
- 中程度の好意的な状況では、人間関係指向型リーダーが効果的。
2. ハーシィとブランチャードのシチューショナル・リーダーシップ理論
ハーシィ(Paul Hersey)とブランチャード(Ken Blanchard)は、リーダーの行動がメンバーの成熟度に応じて変化すべきだとするシチューショナル・リーダーシップ理論(Situational Leadership Theory)を提唱しました。この理論では、リーダーシップスタイルは固定的なものではなく、状況に応じてリーダーが柔軟にスタイルを変えることができるとされます。
彼らは、リーダーシップスタイルを2つの次元で考えます。
- 指示行動(Task Behavior): リーダーがタスクに関する具体的な指示や支持をどれだけ与えるか。
- 支援行動(Relationship Behavior): リーダーがメンバーの感情的なニーズにどれだけ応えるか。
これらの次元を基に、リーダーシップスタイルを4つのタイプに分類しました。
- 指示型(Telling): メンバーが未熟で、明確な指示と監督が必要な場合に効果的なスタイル。
- 説得型(Selling): メンバーがある程度の能力を持っているが、まだ指導が必要な場合に用いられるスタイル。リーダーは指示を与えつつ、メンバーの理解と納得を促します。
- 参加型(Participating): メンバーがある程度成熟しており、自律的にタスクを遂行できるが、リーダーの支援やフィードバックが必要な場合に適したスタイル。
- 委任型(Delegating): メンバーが十分に成熟していて、リーダーの介入がほとんど不要な場合に用いるスタイル。リーダーはタスクを委任し、最小限の監督を行います。
この理論の特徴は、メンバーの「成熟度」に応じてリーダーシップスタイルを調整する点にあります。成熟度が低いほど、リーダーは指示を多く与える必要があり、成熟度が高くなると、リーダーは委任や支援に焦点を移します。
3. パス・ゴール理論(Path-Goal Theory)
パス・ゴール理論は、リーダーが部下の目標達成をサポートし、目標への道筋(パス)をクリアにすることに焦点を当てた理論です。この理論によれば、リーダーの役割は、メンバーが障害を乗り越え、目標に向かって進むためのガイドや支援者としての役割を果たすことです。
パス・ゴール理論では、リーダーシップスタイルを次の4つに分類しています。
- 指示型(Directive Leadership): リーダーが明確な指示を与え、タスクの進め方を具体的に指導するスタイル。
- 支援型(Supportive Leadership): リーダーがメンバーに対して感情的なサポートを提供し、良好な関係を築くスタイル。
- 参加型(Participative Leadership): リーダーがメンバーの意見や提案を取り入れ、意思決定に参加させるスタイル。
- 成果指向型(Achievement-Oriented Leadership): リーダーがメンバーに高い目標を課し、その達成を奨励するスタイル。
パス・ゴール理論のポイントは、リーダーが状況やメンバーのニーズに応じてスタイルを変えることで、メンバーが目標を達成しやすくなるという考え方です。