企業会計基準委員会(ASBJ)が作成する企業会計原則の一般原則は、企業の財務諸表の作成と開示において基礎となる考え方やルールを定めたものです。これらの原則は、企業が透明性と一貫性を持った財務報告を行うための基盤となります。具体的な会計処理のルールを定める「具体的基準」と対照的に、一般原則は会計における基本的な考え方を示しており、以下のような内容が含まれています。
企業会計原則の7つの一般原則
1. 真実性の原則
- 定義: 財務諸表は企業の財政状態、経営成績、キャッシュフローなどを真実かつ正確に反映しなければならないという原則です。
- 目的: 財務諸表を利用する利害関係者(株主、投資家、債権者など)が、企業の実際の状況を正確に把握できるようにするためのものです。この原則は、すべての会計処理や報告の基礎にあります。
- 実務例: 売上や利益を意図的に操作したり、負債を隠したりすることなく、実態に即した情報を提供することが求められます。
2. 正規の簿記の原則
- 定義: 財務諸表は、正確かつ完全な会計記録に基づいて作成されなければならないという原則です。この「正規の簿記」とは、一般に認められた会計基準やルールに従って、適切な仕訳が行われることを意味します。
- 目的: 正確な帳簿記録は、財務諸表の信頼性を確保するために不可欠です。
- 実務例: すべての取引が、適切な時期に正確に記録され、記帳が適切なルールに従って行われることが重要です。
3. 資本取引・損益取引区別の原則
- 定義: 資本取引(株主からの資本拠出や資本還元など)と損益取引(営業活動による収益や費用など)は、明確に区別して会計処理しなければならないという原則です。
- 目的: この原則により、企業の経営成績(利益や損失)が正確に反映され、経営の実態を把握しやすくなります。
- 実務例: 株主資本の増加や減少は損益計算書には反映せず、貸借対照表で扱います。一方、営業活動から得られた収益や費用は、損益計算書に計上されます。
4. 明瞭性の原則
- 定義: 財務諸表は、利用者が理解しやすい形式で作成され、適切に分類・表示されなければならないという原則です。
- 目的: 利害関係者が財務諸表を容易に理解し、企業の経営状況を判断できるようにすることが目的です。
- 実務例: 各勘定科目の名称や内容が明瞭に表示されていることが重要です。また、複雑な情報は補足資料として開示し、読者の理解を助けます。
5. 継続性の原則
- 定義: 会計処理の方法は一貫して適用され、各会計期間で変更されるべきではないという原則です。
- 目的: 継続的に同じ会計処理が行われることで、財務諸表の比較可能性が高まり、企業のパフォーマンスを評価する際に利害関係者が信頼性の高い情報を得られます。
- 例外: もし会計処理方法を変更する必要がある場合には、その変更理由と影響を明確に開示する必要があります。
- 実務例: 減価償却方法など、企業が一度採用した会計処理方法は、毎期一貫して適用されることが期待されます。
6. 保守主義の原則
- 定義: 企業は利益を過度に楽観視することを避け、慎重に財務諸表を作成すべきであるという原則です。つまり、損失は見積もりが可能であれば早期に計上し、一方で利益は確実になるまで計上しないという考え方です。
- 目的: 保守主義は、財務諸表が過度に楽観的に見えるのを防ぎ、利害関係者に対してより現実的な財務情報を提供することを目的としています。
- 実務例: 将来の不確実なコストや損失(例: 貸倒れ、減損損失など)は早期に計上し、まだ確実でない収益や利益は控えめに扱うという方法です。
7. 単一性の原則
- 定義: 財務諸表は、企業全体について一つの会計基準に基づいて作成されなければならないという原則です。これにより、同じ企業内で異なる会計処理が行われることを防ぎます。
- 目的: この原則により、財務諸表が一貫して企業全体の経営状況を示すものとなり、利用者が混乱せずに企業の状況を理解できるようにします。
- 実務例: 企業全体の活動に対して統一した会計基準を適用し、個々の部門や子会社ごとに異なる基準を使用しないことが求められます。
まとめ
ASBJが策定する企業会計原則の一般原則は、企業が財務諸表を作成する際の指針となる基本的な考え方を提供しています。これらの原則は、財務諸表が信頼性と透明性を保つために不可欠であり、企業の財務状況を正確に反映することを目指しています。
- 真実性と正規の簿記は正確で信頼できる情報の提供を求め、
- 資本取引・損益取引区別や明瞭性は理解しやすく分類された報告を保証し、
- 継続性と保守主義は一貫性と慎重さを確保し、
- 単一性は全体としての統一性を維持します。